町の状況
東日本大震災後の町の状況
原発事故により全町避難へ
平成23年3月11日の東日本大震災に起因した東京電力福島第一原子力発電所の事故によって町全域が「避難指示区域」および「警戒区域」となり、全町民11,505人が町外への避難生活を余儀なくされ、町役場についても約100km西に位置する会津若松市と、南に約40kmに位置するいわき市に移転して行政運営をしていました。また、平成28年4月には二本松市に設置していた中通り連絡事務所を郡山市に移転、さらには本格的な帰町に向け大熊町に大川原連絡事務所を設置しました。
町民の避難先としては、いわき市、会津若松市等を中心に福島県内に約7割が避難しており、残りの方は埼玉県、茨城県、東京都をはじめ全国各地に避難しています。
平成24年12月には「警戒区域」が再編され、このうち町民の約96%が居住していた地域が「帰還困難区域」に設定されました。そのため、町としても「5年間は帰町しない」という判断をしました。
町の主要機能を含む町土の大部分が帰還困難区域に指定され、この区域については本格除染の計画がない状況にあるなど、復興に向けた多くの課題に対して明確な時間軸の設定ができない状況で、全町民の避難から5年以上が経過しても、具体的な復興への取り組みができませんでした。
町の復興に向けて
町は、平成25年度に策定した「大熊町まちづくりビジョン」で、本格除染が完了し比較的放射線量の低い大川原地区を町全体の復興の加速を図るための最初のフィールド「大川原地区復興拠点」として開発を行うこととしました。
また、平成27年3月に策定した「大熊町第二次復興計画」で、「町民生活支援」と「町土復興」を2本の柱に掲げ、「避難先での安定した生活」と「帰町を選択できる環境づくり」を目指していくこととしました。
平成28年8月には、帰町への第一歩として、町内初の特例宿泊が居住制限区域の大川原地区と避難指示解除準備区域の中屋敷地区で行われました。
平成29年11月には、「大熊町特定復興再生拠点区域復興再生計画」が国に認定され、帰還困難区域である下野上地区などの町中心部を対象とした復興の計画が動き出しました。
そして、大川原地区と中屋敷地区のインフラなどの生活環境や防犯・医療面での支援体制がある程度整ったことから、平成30年4月24日、当該地区において「ふるさとへの帰還に向けた準備のための宿泊(準備宿泊)」が始まり、町民の長期宿泊が可能になりました。
町内の避難指示が一部解除されて
平成31年4月10日、大川原地区(居住制限区域)と中屋敷地区(避難指示解除準備区域)の避難指示が解除され、震災と原発事故から8年余りの時間を経て、ようやく古里の一部を取り戻しました。令和元年5月には、大川原復興拠点に整備した町役場新庁舎での業務が始まり、町復興の足がかりとして各課題への取り組みを加速させています。
令和元年6月には、大川原復興拠点で町営の復興公営住宅へ入居が始まり、町内に人の営みがよみがえりました。あわせて生活循環バスの運行や仮設店舗の開店などがありました。今後も生活の環境を充実させるため、交流施設や福祉施設を周辺に整備していきます。
帰還困難区域を取り戻す
令和2年3月5日、JR大野駅周辺と県立大野病院敷地などの避難指示が解除されました。町内の帰還困難区域で避難指示が解除されたのは初めてのことです。あわせて、下野上・野上地区の一部で立入規制が緩和され、通行証なしで立ち入りができるようになりました。また、JR常磐線が3月14日に全線再開し、大野駅も同日、利用再開されました。これにより、新たな人の流れが町内に生まれました。
令和4年6月30日には、帰還困難区域のうち、かつての町中心部の下野上地区を含む特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されました。 同区域内では「下野上地区復興拠点」として交流エリア、住宅エリア、産業エリアを設け、新しいにぎわいを生み出す拠点が整備される予定です。大野駅西交流エリアには令和6年12月のオープンを目指して産業交流施設、商業施設、広場などを整備する計画を進めています。
これからの町のために
町は、賠償、住宅の確保、風評被害といった短期的喫緊の課題から、町政機能(学校含む、いわゆる「町外コミュニティ」)、除染、中間貯蔵施設、廃炉処理といった中長期に渡る事項まで多様な課題に直面しています。
課題の多くは近隣市町村や、県、国の政策と緊密な調整が必要な事項となるため、今後とも関係機関と検討・調整を行い課題解決に努めていきます。
英語版レポート
- Recovering from Nuclear Disaster [PDFファイル/2.15MB] April 25,2013
- Road To Recovery From The Nuclear Accident [PDFファイル/2.36MB] Janualry 13,2012
町の直面する課題
復興の取り組みを進めていく中で、町は様々な課題に直面しています。課題解決には具体的な期限等を示す必要があり、町では国に対して『いつまでに、どのような状況になるのか』という時間軸を早急に示すよう強く要望をしており、今後、適時見直しをしていく復興計画に反映をさせ町民の皆さまにお示しをしていきます。
町の直面する主な課題は次のとおりです。
時間軸の明確化
策定した第二次復興計画では、復興に向けての今後10年程度を展望した町の方向性や施策をとりまとめましたが、次の事項が明確になっていないため、本来設定すべき帰町時期を計画にてお示しできない状況にあります。
不確定な除染効果
町内の避難指示解除準備区域(中屋敷地区)と居住制限区域(大川原地区)では除染が完了しましたが、宅地と森林等の違いにより、除染効果にバラツキがある状況にあります。
また、町民の約96%が居住していた地域が高線量地域(帰還困難区域)となったため、本格除染が計画できない状況でしたが、平成27年8月に帰還困難区域の下野上地区で国による先行除染が開始されました。その後、本格除染が行われ、特定復興再生拠点区域の放射線量は低減されましたが、既に一度除染した箇所であっても、舗装のひび割れ(クラック)、雨だれ、側溝の周りなどは、雨風等により放射性物質を含む土が集まり、周囲と比べて局所的に放射線量が高い「ホットスポット」となった事象が見られました。フォローアップ除染等により、安心して帰町できる環境を整えるよう、引き続き国に求めていきます。
線量の明確な基準
今回の原発事故による生活環境、健康、食品等に係る追加被ばく線量について、現段階では明確な世界的基準がない状況にあります。
町民の健康被害や風評被害を避けるためにも、客観的、科学的な追加被ばく線量基準の根拠が必要となります。
原子力発電所事故の収束、廃炉の明確化
町内において安心した生活を過ごすためには、東京電力福島第一原子力発電所1~4号機について、事故の完全な収束と安全で円滑な廃炉措置が確実に進められていくことが必要となりますが、廃炉作業において度々トラブルが発生している状況にあります。また、原子炉内の溶けた燃料等が冷えて固まったいわゆる燃料デブリの取り出しや増え続けるALPS処理水など、廃炉に向けた課題が山積しています。
町は、事業者である東京電力を今後も厳しく監視すると共に、国(政府)に対しても事業者任せにせず国策として原子力政策を進めてきた責任者として前面に立った対応をとるよう求めていきます。
中間貯蔵施設
国が大熊、双葉両町に建設を計画している中間貯蔵施設については、平成25年12月に設置受け入れを要請されて以来、国や県をはじめ関係機関と議論を重ねてまいりました。平成26年9月には県知事が国に建設を受け入れる旨を回答し、町としても町議会や行政区長会と協議を重ね、平成26年12月に施設の建設受け入れを判断しました。
また、搬入受け入れについては、県が示す県外最終処分の法案の成立等5項目に関する国の対応状況が示され、概ね県および地元自治体の意向を踏まえた対応がなされていることを確認したと共に、国と県、大熊、双葉両町において安全協定を締結し、苦渋の決断ではありますが、総合的な観点から搬入受け入れはやむを得ないとの判断をしました。
そして、平成29年10月28日には土壌貯蔵施設で、汚染土壌の貯蔵が始まりました。汚染土壌や廃棄物はこれまで、保管場などに「仮置き」の状態でしたが、土壌貯蔵施設の稼働により町内で土壌の「貯蔵」が始動したことになります。
今後も町として、事業者である環境省に対し、地権者への丁寧な説明と十分な理解をいただく努力を継続して行なうよう要望していくと共に、安全対策については引き続き国、県と協議、連携を図ってまいります。
生活再建の遅れ
住宅の確保
原子力発電所事故に伴う避難により、元々一緒に生活していた家族が、職場や子どもの学校の変更等の様々な事情によりバラバラに生活しなければならない状況を強いられています。
現在、そうした状況を改善するための施策の一つとして、町外コミュニティの形成を検討していますが、復興公営住宅については、建設が遅れたものの、平成26年11月に入居が始まりました。
町では町民が少しでも落ち着いた生活が過ごせるように、今後も様々な施策を国および県と協議を行うとともに、町外コミュニティの形成については国および県に対してリーダーシップを持った対応をするよう求めています。
また、県外へ避難をしている方に対する住宅の確保についても、特別な対策を検討するよう求めていきます。
雇用の確保
町の大部分は未だ避難指示区域に指定されており、一次産業に従事していた方や町内に工場が立地していた企業等は、事業再開ができない状況にあり、国による具体的な雇用政策が必要でした。
平成29年5月からは、避難指示区域内での例外的な事業の実施が認められるようになり、町内の事業環境に進展がありました。しかし、実施できる事業は復興に関するものに限られているため、今後も継続した雇用環境の整備が必要となります。
賠償問題
町では国に対して、長期避難を余儀なくされる町民が今後の生活再建が見通せるよう、東京電力が町民に対して実態に応じた損害賠償を迅速かつ確実に行うよう国の責任において指導するよう求めています。
さらに、東京電力では住居確保損害の賠償を開始しましたが、内容については複雑であり、町民に対して丁寧な説明を求めると共に、適正な賠償がなされるよう、また、未だ請求が開始されていない賠償項目についても早急に開始されるよう求めている状況です。
多様なニーズへの対応
現在、仮設・借り上げ住宅に住んでいる町民に対する今後の住環境、教育・子育てに係る問題、避難先での精神的ストレスや風評被害など、避難の長期化に伴って課題が多様化しています。
町民の様々な思いに応えるために、家族構成等のパターン別の支援内容を検討し作成した復興計画をもとに、今後も町民のニーズに一つひとつ細かく対応をしていく必要があります。
町民の皆さまが「大熊町出身」であることに誇りを持ち続けることが出来るよう、今後も強い意志を持って復興に向けて取り組んでいきます。