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【インタビュー】岩船 夏海さん

岩船夏海さん vol.1

あたらしいまちづくりのため、マンパワーや人と人とのつながりを大きな促進力に。

こうした大熊町の取り組みを支え、実際に移住を考える方々の窓口となる移住定住支援センターが開所したのは2022年4月のこと。

「移住者に全力で寄り添うサポート」「移住者も帰還者も町に関わる方も、垣根なく集える場づくり」「魅力ある大熊町を醸成し、情報発信」をコンセプトに日々活動しています。

現在、センターの職員として働く岩船夏海さんも、実は移住者のひとり。移住者だからこその視点を活かし、大熊町の未来を考えています。

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一からのまちづくりに可能性を感じて

「大熊町に来る前は、特別支援学校の教員をしていました。やりがいのある仕事だし、具体的な不満があったわけではないのですが、“このままずっとこの仕事に従事して、学校しか知らない人間になっていいのか”という自問自答があったんです。いちど学校の外に出て、別の視点で学校や学校教育についてみてみたい、という気持ちもあって。それで転職を決めて、転職サイトやアプリでいろんな企業を見ていたのですが、大熊町の移住定住支援センターもそのひとつでした」

開所したばかりの移住定住支援センターでは、相談員の山崎大輔さんが中心となって共に働くスタッフを募集していました。

山崎さんもまた、大熊町へ移住して移住定住促進に携わる“先輩”。

岩船さんが抱く疑問や不安、移住に関するさまざまなことに対して、具体的かつ忌憚なく答えてくれたことも岩船さんの安心感につながりました。

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大熊町では移住を考える方たちへ向けてのガイドブックを発行している

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新たな仕事を求めた先が、新たな暮らしの舞台になった

初めて訪れた大熊町に移住を決意

「最初はやはり、教育関連のお仕事を中心にサイトを巡っていたのですが、その中でまったく別ジャンルのお仕事として移住定住促進センターの求人があり、“おもしろそう、一度お話を聞いてみよう”と思って山崎さんと会いました。その際の彼のお話がとても魅力的で。『大熊には、未来しかない』と彼は言うんです。『町民がゼロになったところからまちづくりを始めています。特殊な場所、特殊な環境だけれど、それがおもしろいと思える人なら絶対に楽しいと思うし、来るなら今だと思うよ』と。一からのまちづくり、その言葉に惹かれて最終面接に進み、初めて大熊町を訪れました。わたしは、良くも悪くもこの時まで大熊町についてほとんど知らなかったんです。わたしが生まれ育った新潟県も大きい地震があったので、被災地そのものにはシンパシーは抱いていたけれど、大熊町という存在をちゃんとは認識していなかった。もちろん線量についての懸念はあったけれど、憶測なしで自分で調べて、その結果に“問題はない”と自分で納得できていたし、わたし自身、新潟の妙高高原で生まれ育っているので、多少の不便はどこの田舎でも同じことだと思えたし。初めて訪れた大熊町をフラットに見つめて、出会う人みんながいい人で、まちづくりがおもしろそう、そしてそこに仕事がある。これは縁だ、と思いました。もうひとつ、『学び舎 ゆめの森』がとても魅力的だったことも大きかった。教員として関わろうとは考えていませんでしたが、これもまた縁だな、と」

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児童館だった建物を利用し、2022年4月に大熊町移住定住支援センターを開所

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「さまざまなものごとは“縁”でできていると思うんです」

「ゆめの森」に教育の未来形を見る

「大熊町立 学び舎 ゆめの森」は、認定こども園と義務教育学校、預かり保育、学童保育を一体にした施設。認定こども園と義務教育学校の子どもがともに学ぶ、全国的にも希少な0歳~15歳のシームレス教育を取り入れているのが特徴です。

「大学時代の研究を活かして、この前は昆虫の標本を寄贈しました!子どもたちが興味深そうに見ているのが嬉しかったですね。教員として働いていた時も、“学校って、外からはどう見えているんだろう”と疑問だったので、ゆめの森のように全国的にも珍しいシステムの学校を開校当初から身近に見ていけることは、とても意義のあることだと思います。また、今は小学校から英語やプログラミングの授業が導入されていますが、わたしがいた特別支援学校には英語やプログラミングを教えることができる専門の人はいませんでした。でも、学校の中にはいなくても、学校の外にはたくさんいらっしゃるのだから、地域のかたや企業に協力してもらうことができたら、とずっと考えていて。今よりもっと積極的に、学校と、地域や企業をつなげることができたら、今までにない教育のアプローチや提案を見いだせるんじゃないかな、と。教育のプロフェッショナルはいくらでもいますから、むしろそこから遠い、従来のシステムの外にいる方のほうが、新しいことができると思います」

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「大熊町立 学び舎 ゆめの森」の校舎。フリールームや階段式の図書室など、画期的な構成。

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 岩船さんが寄贈した昆虫標本。

交流人口・観光人口を増やし移住へとつなげる

最終面接の日から約1ヵ月後の2023年6月1日、岩船さんは移住定住支援センターの相談員として仕事を始めました。

「最終面接の日に住居の内見もさせていただいたのですが、その安さに感激しましたね。広くて、きれいで。都内に住んでた時とは家賃が十万円単位で違う。仕事が決まって、住むところも安くてきれいで、もうこれで全然暮らせるな、と思いました(笑)。仕事をスタートしてからの1ヵ月くらいはさすがに毎日ドキドキしてました。新しい仕事、新しい場所、新しい人。すべてが全く違うので。でも、ちょうど一番忙しい時期に入ったので、眼の前の仕事をこなすうちに慣れた、という感じですかね。学生農業インターンの方たちの受け入れとアテンド、『大学生観光まちづくりコンテスト』で訪れた方たちのためのツアーなど、たくさんの方たちがセンターを窓口に大熊町を訪れてくれましたから。業務のメインは移住相談ですが、いきなりピンポイントで大熊町への移住を相談する人はやっぱり少ないんです、遊びに来てくれる人を増やして、その先に“住んだら楽しそう”があればいいな、と思います。数日間の滞在ができるお試し住宅や、いろいろな体験プログラムもあるので、気軽に利用していただきたいですね。体験プログラムは、訪れるかたそれぞれのニーズに合わせて組んでいます。お子さんがいるご家族ならゆめの森、就農を考えている方ならイチゴ栽培のネクサスファーム、原子力問題に取り組む学生さんなら中間貯蔵施設にも案内します。道にも詳しくなりました(笑)」

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移住相談はもちろん、大熊町の魅力を広くアピールすることも岩船さんの大切な仕事。

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センターには町や地域に関するさまざまな情報が集まり、町民の憩いの場としても機能。

大熊町の魅力である“人”を増やす

移住者として、そして移住定住支援センターの相談員として、2つの側面から岩船さんはよりシビアに移住をとらえています。

「移住相談員として、正直に“あなたの大熊町への移住は難しい”と言うこともあります。実際に住んだ方たちが暮らしに満足して定住するまでを支えることが、わたしたちの仕事ですから。シビアなことを言えば、車がない・車の運転ができる人が家族にいない、という状態では、自由な通院やスーパーへの買い出しはまだまだ難しい地域です。大熊町は、基本的なインフラがやっと整ったばかり。でも、“これから”という伸びしろを待とう、一緒につくっていこう、と思う方たちなら、わたしたちも全力でサポートしていきます。大熊の一番の魅力は、人。その“人”は、これから移住してくる方たちも含めてのことなんですから」

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 大熊町のマスコットキャラクター・まあちゃんは子どもたちにも大人気。​

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