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【インタビュー】ブケ・エミリーさん

ブケ・エミリーさん vol.1

現在、大熊町で自然農業を実践し、果実や野菜を育てているブケ・エミリーさん。

愛らしいグッズを展開するイラストレーターとしても人気を博しています。

彼女がフランスから日本へ移住、そして大熊町に定住するまでには、どんな思いと過程があったのでしょうか。

「大熊町の山々の風景が大好き」と語る彼女の軌跡と、彼女が目指す農業のかたちについてお伺いしました。

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大熊町の自然と共存する、穏やかな農業を。

ぱっと見には枯野にしか見えない、晩秋の山裾地。

でも前を歩くエミリーさんが指し示す先には、小さいけれど確かに生命力をみなぎらせた、青々とした葉が息づいています。

「これがラズベリー、これもラズベリー。わたしの畑の主力作物ね。こっちは、似てるけどブラックベリー。ミントやローズマリーもあるよ。植えたばかりなのは、アンズ、リンゴ、サクランボ。これから、栗と桃を植えようと思っています」

イラストレーター、そしてフランス語教師としても活躍しているブケ・エミリーさんが大熊町で農業を始めたのは、2023年の2月のことでした。

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果樹の定植にも果敢に取り組む

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ラズベリーがエミリーさんの主要作物

“怖い”という思いと、まっすぐに向き合う

「2011年から計10年、東京・横浜でフランス語の教師として生徒さんに教えていました。その中にいた福島出身の方との出会いが、大きな転機になったと思います。最初はわたし、福島にネガティヴなイメージを持っていたんです。“嫌だな”“怖いな”って。でも、その福島出身の生徒さんとお話しするうちに、怖いとか怖くないとか考える根拠すら持てないほど、自分は福島のことを何も知らないな、って思うようになって。だからそれからは何度も福島を訪れて、たくさんの風景を見て、たくさんの人とお話して。そしたら、福島のことが大好きになりました」

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イベントにも積極的に参加し、交流の輪を広げている

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 日本人以上にきれいな日本語で話すエミリーさん

人との出会いが、大熊町へと繋がる

2021年には会津に引越し、移住プログラムを利用して体験生活をスタート。

「福島のイラストマップを描くお仕事に取り組む中で、友人と一緒に浪江、富岡、双葉の桜を見に行きました。そうやって浜通りを巡り歩くと、原発事故や津波の影響をとても辛く感じて。“自分にも何かできないか”。そう思ってイラストを描き始めたときに、…今でも何故なのかはっきりは分からないけれど、“ああ、ここで農業をやりたいな”って思ったんです」

エミリーさんの生まれ故郷はフランス北西部のブルターニュ。豊かな自然と共存する暮らしの中で、幼い頃から農業が身近にあり、自然と興味を持つようになっていたといいます。

「わたしのイラストグッズを販売してくださっていた芦ノ牧温泉の大川荘さんが、トマトの大規模栽培と加工、レストランを手掛ける『ワンダーファーム』の元木 寛さんを紹介してくれたんです。元木さんは大熊町の出身。“浜通りで農業をやりたい”と相談したら、いろんな人を紹介してくれて。実際に訪れた大熊町は、山の景色もきれいで、人もみんな優しくて、“ああ、ここだ”って思えた。それからプランをしっかり作りこんで、2022年12月に大熊町役場でプレゼンテーションをして、農地の提案をいただきました」

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絵葉書やバッジ、マスキングテープなど多彩なグッズ展開

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 福島の伝統玩具や文化財などをモチーフにイラストを作成

耕作放棄地をゼロから開拓

エミリーさんの「あまの川農園」は、約1.7ヘクタール。道路端から森に囲まれるようにある場所まで、少しずつ環境の異なる土地が緩やかに繋がっています。

「最初は水はけが悪いかな、と思ったけれど、森と森に囲まれて、山があって、すごくいい場所。隣に他の人の農地がないから、お互いに農薬や害虫などの干渉を心配する必要がない。畑のそばに、近くに住み着いていた野良猫ちゃんの餌と寝場所をつくりました。ネズミを捕る、という大事なお仕事をしてくれるパートナーです」

猫好きのエミリーさん、この野良ちゃん2匹のほかにお家でも4匹の猫ちゃんを飼っています。

「大熊町に住むにあたって、農地の確保と同じく譲れない条件が、猫と一緒に住めることでした。移住前、役場でのプレゼンよりも前の11月、町内でふるさとまつりが開催された際に、ぽろっとアパート探しのことを口にしたら、今のアパートの大家さんを紹介してもらえたんです。おまつりには町内の方みんなが参加していて、みんなが親戚みたいに親身になってくれて。ありがたかったですね。いま、大熊町では避難解除になった区域から順に整備が始まっていて、この先、住宅もさらに増えると思います。住宅に対する補助・援助もさまざまなタイプのものが用意されているので、踏み出しやすいんじゃないかな。病院やマーケット、駅などの整備もそんなに遠い話じゃないし。…でも、今の状況でもわたし、あんまり不便は感じていないんですよ。この前、久しぶりに東京に行って、デパートやカフェも利用したんですけど、こんなにお店って必要なのかな、って思っちゃった。大熊町に住むと、“ほんとに必要なものって何かな、何がどれくらいあれば十分かな”」ってことが整理できると思う」

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 約1.7ヘクタールの農地をひとりで耕作

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 家では4匹の猫と暮らす

大切なものは何か、気づかせてくれる場所

エミリーさんは、大熊町への移住までの日々を「最初から“大熊で農業を!”と意気込んでいたわけではなくて、ちっちゃい舟に乗って、きれいな川の流れに乗ってたらここに来ました、っていう感じ」と表現します。

「人との繋がりが、わたしを大熊町に運んでくれました。大熊町で、日本ではあまり食べられていないラズベリーを作って、パティシエやデザイナーの人と一緒にお菓子作りがしたい。それがいずれは大熊町のお土産になったらうれしいですね。わたしにとって大熊町は、とても落ち着くところ。今いる場所に何らかのストレスを感じている人や、自分の居場所を探している人は、ぜひいちど来てみてほしいです」

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 「あまの川農園」の看板や小屋も手作り

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 畑から望む山の風景に日々癒される

公営住宅

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